サザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」は社畜への応援歌なんかじゃない。

2018年6月15日に配信されたサザンオールスターズの新曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」は、池井戸潤原作の映画「空飛ぶタイヤ」の主題歌になった。

既にかなり知られている曲であると思うが、もしまだ聴いていないのであれば、時代を切り取った名曲なのでとにかく聴いて欲しい。

なんとYouTubeでフルバージョンが聴ける。


サザンオールスターズ – 闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて(Full ver.)

で、この曲を聴いて「背中押されました!会社で頑張ります!」みたいな感想を書いてる人がいて、僕の抱いた感覚と違いすぎてびっくりしたので、この歌は社畜への応援歌なんかじゃないよってことを書いていきたい。

まあ、曲の解釈については、歌詞と音楽とMVを元に特にサザンのファンでもなんでもない人のひとり言と思って聴いて欲しい。

 

以下、作詞・作曲 桑田佳祐「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」から歌詞を引用している。

 

まず、この曲は皮肉が詰まった曲だ。MVを見ると明らかである。とりあえず皮肉だなーという3ヶ所をピックアップした。

ちなみに皮肉とユーモアは近いものがあるので、MVを見ていて笑ってしまうシーンはだいたい皮肉である。

さらに補足で、皮肉とは英語でSarcasmとironyと言い(この2つの違いについてはそれぞれぐぐってほしいが)、あえて真逆のことを言ったり、風刺したりすることだ。こうして分かりきった「皮肉」についてわざわざ説明していること自体が皮肉だったりする。

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1つ目がこれだ。スマホでニュースサイトを見ていると、画面いっぱいの広告が出てくる。何度も、何度も、何度も。これはスマホあるあるだが、1スクロールごとに広告が出てくるのはさすがに強調しすぎなので、スマホに表示される広告を皮肉ってユーモアにしていることが分かる。

うがった見方をすれば、広告会社である電通を表現しているのかとすら思ってしまう。

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2つ目に、このシーンでは社畜の部屋が出てくる。それぞれ個性的で、静止画でじっくり見るとかなりおもしろい。で、このシーンも明らかに社畜の生活を皮肉って笑いにしている。

曲のリズムに合わせて社畜がスーツを脱ぎ、ベットに入り、またスーツを着て会社に行く。それが1つの部屋から4つ、9つと部屋の数が増え、みんな同じく単調な生活をしていることが表されている。

自由に「自分らしさ」を出せるのは部屋の中だけということだろうか。それでも同じ家具の配置をした同じようなワンルームの1室であることには変わりないが。

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最後に、曲調が変わる直前に社畜たちが蕎麦と思われる麺類を食べているシーン。画面に見える3人の姿が同じであり、同じリズムで同じものを食べる。最後に蕎麦のどんぶりにつっぷす。生活リズムだけでなく、食べるものまで単調であり同調しているという皮肉が込められている。

 

この曲が皮肉に満ちていることは、MVの3つの例から理解できただろうか。では、皮肉っていることを前提にいくつか歌詞を聴いてみよう。

自分のために人を蹴落として 成り上がる事が人生さ

桑田佳祐が、本当に人を蹴落として成り上がれと言ってると思うのか。彼の思想に詳しくないが、この曲からそんなメッセージは一切受け取ることができない。

だから、この歌詞を聴いて「よし!今日も会社で頑張るぞ!出世するぞ!」って考えるのは違う。 

寄っといで 巨大都市へ 戦場で夢を見たかい?

しんどいね 生存競争は 酔いどれ 涙で夜が明ける

 さらに、「寄っといで」についても本来の意味と逆で、むしろこんな蹴落とし合う競争には巻き込まれちゃ駄目だぞと言っているように思う。もし巻き込まれたら、そりゃ「しんどい」よねと。

道に倒れた人を踏み越えて 見据えたゴールへとひた走る

 で、社畜たちは一筋の光(=ゴール)へと屍を踏み越えながら駆けていく。横目には潰れていった同僚がいながら。

 

彼らが目指すゴールは「幸福」だろう。なぜなら「リアル人生ゲーム」(https://amzn.to/2LFD6Ot)に書いてあるように、人生は幸福ポイントを多く稼ぐゲームであるからだ。

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その幸福の象徴である一筋の光がこれだ。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」をオマージュしているのは明らかである。

「蜘蛛の糸」は、蜘蛛の糸を登って地獄から抜け出そうとしていた罪人が、自分もろとも重みで糸が切れてしまうことを恐れ、他の登ってくる罪人に対して「下りろ」と言ったとたんに糸が切れて、地獄に落ちてしまうという物語だ。自分だけという醜いエゴが出た途端に地獄行きである。

「蜘蛛の糸」は青空文庫で無料で5分くらいで読めるのでぜひ読んでくれ。BGMはもちろん「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」で。

芥川龍之介 蜘蛛の糸

読んでくれれば分かると思うが、「蜘蛛の糸」がこの曲の主軸にあると言ってもいい。MVに出てくる人はみんな、まさにこの罪人と同じように、自分だけ上がれば良いと考えている。そのためには周りの人を蹴落とせばいいと。

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しかし、登った先には何があっただろうか。頂上に降り注ぐ光だと思っていたものはどこにもなくなり、そうこうしているうちに自分もまた屍の一員となってしまう。

その間にMVでちらちら光として映っていたシーンは、同僚と肩を組んでいたり、居酒屋で飲んでいたり、子供を抱き上げている場面だ。

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そして最後には、屍のピラミッドの頂上ではなく、地上にいる人に光が降り注ぎMVが終わる。

 

この曲のタイトルは「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」であるが、人を蹴落とす競争ばかりしている社畜を、そうするインセンティブを与えている会社を、そんな文化を作り上げた社会を皮肉っている。そんなことをしている人たちへの「愛」は込められていない。社畜への応援歌ではない。

ただ、歌詞にもあるように「この世はすべて裏表」だ。裏には本当に「愛」が込められている。闘う戦士がピラミッドの頂上ではなく地上に降り注ぐ光を見つけてくれれば、そこに「幸福」があるんだよと。

 

断じてアイツに心を隙間から侵入することを許してはいけない。その先に「幸福」はない。

 

こんなに優しく、何度も聴きたくなる名曲を創れる桑田佳祐さんには脱帽だ。今年の夏はこの曲を無限ループすることになるだろう。

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